ショコラ SideStory
やがて見えてきた『ショコラ』。開店前なので、扉の前で一呼吸していると、詩子さんとマスターの罵声が聞こえてきた。
「そんなんじゃないって言ってるでしょ。ウザい!」
「だってお前が泣くなんてよっぽどだろう」
「よっぽどじゃない時だって泣きます。そもそも父さんが意地悪な言い方するからでしょ? 何よ、あたしにだって感情くらいあるんだからね!」
泣く?
そんなワードが聞こえて、慌てて扉を開ける。
カラン。
鈴の音に、怒鳴り合いをしていた二人もピタリと黙り、俺を見つめた。
「……宗司さん」
「良くも抜け抜けとやってきやがったな、宗司」
呆ける詩子さんと、腕をさすって凄むマスター。
ちょっと待て。全然話が分からない。
「あの、俺。えっと、なんかしました?」
「何もしてないわよ」
「何もしないのが悪いんだろうがバカ」
「え?」
目尻の涙を拭いて、詩子さんは突っかかってくるマスターを俺から引き離す。
「父さん、いい加減にして。止めないと、母さんに言いつけるわよ」
ビシリと人差し指を突きつけると、マスターは一気にたじろぐ。
「詩子、店の掃除は代わるから、ちょっと出てこいよ」
そう声をかけてくれたのはマサくんだ。
「そうね、頼むわ。父さん、……ちょっと抜けていい?」
今度はマスターを覗きこむようにして見上げる。マスターの喉元がゴクリと唾を飲み込んだのを、俺は見逃さなかった。
わかります、マスター。
詩子さんのその顔は反則ですよね。
ただでさえ可愛いのに。目が潤んでいたらもう最強ですよね。