ショコラ SideStory

 やがて見えてきた『ショコラ』。開店前なので、扉の前で一呼吸していると、詩子さんとマスターの罵声が聞こえてきた。


「そんなんじゃないって言ってるでしょ。ウザい!」

「だってお前が泣くなんてよっぽどだろう」

「よっぽどじゃない時だって泣きます。そもそも父さんが意地悪な言い方するからでしょ? 何よ、あたしにだって感情くらいあるんだからね!」


泣く?
そんなワードが聞こえて、慌てて扉を開ける。


カラン。

鈴の音に、怒鳴り合いをしていた二人もピタリと黙り、俺を見つめた。


「……宗司さん」

「良くも抜け抜けとやってきやがったな、宗司」


呆ける詩子さんと、腕をさすって凄むマスター。
ちょっと待て。全然話が分からない。


「あの、俺。えっと、なんかしました?」

「何もしてないわよ」

「何もしないのが悪いんだろうがバカ」

「え?」


目尻の涙を拭いて、詩子さんは突っかかってくるマスターを俺から引き離す。


「父さん、いい加減にして。止めないと、母さんに言いつけるわよ」


ビシリと人差し指を突きつけると、マスターは一気にたじろぐ。


「詩子、店の掃除は代わるから、ちょっと出てこいよ」


そう声をかけてくれたのはマサくんだ。


「そうね、頼むわ。父さん、……ちょっと抜けていい?」


今度はマスターを覗きこむようにして見上げる。マスターの喉元がゴクリと唾を飲み込んだのを、俺は見逃さなかった。

わかります、マスター。
詩子さんのその顔は反則ですよね。
ただでさえ可愛いのに。目が潤んでいたらもう最強ですよね。

< 195 / 432 >

この作品をシェア

pagetop