ショコラ SideStory


翌朝の開店前、出勤したあたしに、親父はきっぱりと言い切った。


「今回のアイシングの仕事は俺がやる」

「え?」

「お前は病み上がりだし、休んでろ」


正直、ホッとした部分もあった。
だけど、あたしの中の仕事に対する意識が、それでいいのかって訴えてくる。


「……でも、アイシングはあたしの仕事よ」


あたしが作るクッキーが願いを叶える。
眉唾ものみたいなジンクスだけど、それを願って来てくれる人に対して、あたしが作らないのは失礼じゃないのかしら。


「お前が作ったって俺が作ったって『ショコラ』のクッキーには違いないだろう」

「そりゃそうなんだけど」

「それ、宗司あてのクッキーなんじゃないのか。あんだけちょこちょこ会いに来てりゃ俺だって分かる」


普段厨房に籠もりきりのくせに、どうしてそういうことだけは目ざといのかしら。


「だからって、注文されたものは断れないでしょう。あたしだってプロなのよ、プライドあるの!」


思わず大声で言い返すと、珍しく親父までもが大声を出した。


「黙れ。プロだと豪語するのはお前にはまだ早い!」

「なっ」



頭に血が上った。
そりゃ、あたしはようやく最近クッキーを任されるようになったばかりよ。
パティシエと言うよりはウェイトレスが本業みたいなもんだ。

分かってる。……けど、あたしはあたしなりに必死にやっているのに。

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