ショコラ SideStory


「……ふざけんな。親父!」


思い切りエプロンを投げつけた。
自分でも驚くほど興奮している。

親父はしまった、というような顔をして急にオロオロし始めるけど、それさえもなんだか火に油を注ぐようで。

侮辱されたと思った。怒りで頭が真っ当に働かない。


「だったらあたしは何なのよっ」


最後の方は涙が出てきて、あたしはそのまま店を飛び出した。


「おっと」

店を出て数分のところで、人にぶつかる。


「すみませ……詩子さん?」


その相手は宗司さんだ。
手にはお漬物の入ったタッパーがある。

今日は店に出るってメールで伝えていたから、朝から持ってきてくれたんだ。


「え? 泣いてる? 詩子さん」

「離して、宗司さん」

「ちょ、逃げないでよ。何があったの」

「親父と喧嘩しただけよ。離して」


ようやく芽生え始めたあたしのプロ根性。
それをガツンと叩き倒されたみたいで悔しくて。

でも、今回に限ってはその申し出がありがたいような気もして。
そう思ってしまった自分にイライラする。

宗司さんに送られるはずのクッキーを、心を込めて作れるわけでもないのに。

……そうよ。
親父が言っていることは正しい。

『ショコラ』のクオリティに見合うものを、今のあたしは彼女に対して作れない。
だからこそ自分がやると言っているんだろう。

分かっても納得できても、感情がついていかない。

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