ショコラ SideStory
そして、十時過ぎに『ショコラ』に出勤すると、驚くことにそこは修羅場になっていた。
「ふざけんなー!」
厨房からおやじの怒号と共に、カウンターの内側にゴムベラが飛んでくる。
カランカランと音も聞こえる。多分ボールが転がったんだろう。
勘弁してよ。
自分で片付けないくせに物に当たるのやめてくれないかしら。
あたしの姿を見つけたマサは、近寄ってきて耳打ちする。
「詩子、いったい何があったんだよ」
「それはこっちが聞きたいわ。なんなの、これ」
「マスターと松川さんが喧嘩してる」
「喧嘩?」
ていうか、宗司さんと?
なんで朝から宗司さんがいるのよ。
慌てて厨房に入ると、そこは酷い惨状だった。
親父が調理中だったとみられるホイップされたクリームが、調理台やシンクのいたるところに飛び散っていて、足元にはクリームの入ったボールが転がっている。
宗司さんも彼に掴みかかっている親父もクリームまみれだ。
二人はあたしをちらりと見ても何も言わず、再び正面を見てにらみ合いを続ける。
シカトとか上等じゃないのよ。
あたしは出来る限りの大声で二人の間を割った。
「なにしてるの、二人共」
「うるさい。黙ってろ、詩子」
瞬間で返してくる親父。
むっかー。
何も言われたくないなら、こんな場所で喧嘩するんじゃないわよ。