ショコラ SideStory
あたしのクローゼットには、母さんが選んでくれた洋服が一杯。
誕生日やクリスマス。節目節目にちゃんと年代にあったものを選んでくれた。
男親では心もとない気遣いを離れていても忘れずにしてくれたことは感謝してる。
「でも持っていかないもん」
今は悔しいから、それらは全部置いていく。
自分で買った服と鞄。それだけで十分だ。
「宗司さん、行こう」
「詩子さん」
リビングに戻ると、宗司さんは困ったようにあたしと母さんを交互に見る。
母さんは変わらず冷静な顔を崩さずそっぽを向いている。
凍りついた場面をなんとかしようと、親父がため息をついて手をシッシッと振った。
「いいよ、行け、宗司。頼むぞ、詩子のこと」
「マスター……」
おずおずと立ち上がった宗司さん。その奥にみえる母さんの表情は変わらない。
「ちゃんと仕事は出るから。じゃあ」
「分かった」
返事をするのは親父。母さんは黙ったままだ。
もう! なんなのよ。
今度はだんまりなの?
あたしは腹がたって、扉を思い切り閉めた。
先に家を出て、追いかけてくる宗司さんの声を背中に聞く。
「詩子さん」
「なによ」
あたしは立ち止まらずにどんどん先を行く。
もっと早く歩いてついてこればいいのに、宗司さんの足音は遅い。
「詩子さん」
声だけがあたしを追いかける。
彼の声は、時折しょげている子犬を思わせるから、ついつい放っておけなくなってあたしは立ち止まった。
「うるさいわね、なんなの」
振り向くと、宗司さんが困ったような顔をしつつも両手を広げている。
……違うか。
放っておけないと思われてるのは、あたしの方だ。
本能のまま地面を蹴って彼に抱きついた。
宗司さんは、いつもの穏やかな調子であたしを抱きしめて、背中をポンポンと叩いてくれる。
ヒートアップしていた気持ちが、急にぺしゃんと萎んでしまう。
うっかり泣けてきて、でも泣き顔なんて見せたくないからずっと抱きついていた。