ショコラ SideStory


 朝食を食べ終え、いつもより長い通勤時間をかけて『ショコラ』へ出勤する。
余裕を持ちすぎたせいか、結局いつもより早く着く。マサも来たばかりらしく、エプロンを着けているところだった。


「あれ、詩子早いな」

「んー」

「なんだよ、しけた返事」


だって元気が出ないんだもの。仕方ないじゃないの。
客が来たら本気出すわよ。


そのまま厨房に向かうと、親父が生クリームと格闘していた。


「おはよ、父さん」

「おう」


まるで何も無かったかのような小さな返事。
いつもなら朝帰りがどうこううるさいくせに、もうあたしのことなんてどうでもいいのかな。


「……掃除するわねー」

「おう」


なんか、親父とも気まずいな。

なんだろ。すごーくしんどい。
仕事したくないな、なんてあたしが思うの、珍しいんだけど。




「えーでも、それってお母さんがひどくないですか?」


午後三時、講義が空いたからと『ショコラ』に来てくれたマサの彼女の和美ちゃんを相手に愚痴り倒すあたし。
同意してくれる相手が現れて、ようやく調子を取り戻してくる。


「でしょ? ひどいでしょ? 母さんがお固く生きてきたならともかく、あの人こそ自由奔放に生きてきたのよ?」

「収入が少ないって言っても、二人とも働いてるわけですし。もっとひどい状況でも結婚する人っていますよぉ」


和美ちゃんがちらり、とマサを見る。

マサの収入はあたしよりいいはずだけどね。でも、やっぱり結婚とかには心許無いのかも知れない。
まあ、和美ちゃんはまだ学生さんだから、そこまで考えてもいないだろうけど。


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