ショコラ SideStory


 母さんとの絶縁状態は数週間続いている。

 いつもならうざい親父も、このことに関してはずっと口をつぐんでいて、あたしはなんだか親父さえも他人になってしまったような気分になる。


「詩子、給料。今月もご苦労」


『ショコラ』の給料日は二十日。今どき珍しい手渡しだ。現金でもらっちゃうから貯められないのかな、なんて思ってしまう。

と、中身を確認して眉を寄せる。いつもより多くない?


「父さん、いつからあたしの給料は上がったの?」

「クッキー担当の分の金額を今まで加えてなかったからな。見直ししたんだ」

「それは、……ありがとうございます」


同情か? と思わないこともないけど、はっきり言えば助かる。
普通に企業に就職するよりはもちろん安いけど、生活設計を考える上では三万増えればだいぶ違う。


「気にするな。お前の能力からすれば当然の対価だ。今までやらなかったのが悪かった。そして辞めるとかも考えるな」

「なにそれ」

「『ショコラ』には詩子が必要だ」


まさか親父の言葉にキュンとする日が来ようとはビックリだわ。
正直言えば、ちょっと……いやかなり嬉しい。親父との距離が戻ったようでホッとする。


「やめないわ。あたしだってこの仕事は好きだもの」

「ならいい。……康子さんのことも、嫌うなよ?」


でもそれとこれとは話が別だわ。
自然に顔がひきつってくるのが分かる。


「理不尽に反対されてるのに、好きになれって虫が良くない?」

「康子さんはお前のこと心配してるんだ」

「心配より信用が欲しいわ。あたしは」


ダメだ。母さんのこと話してると泣きそうになる。
あたしは唇を噛み締めて黙りこくった。
これ以上、話なんてしたくない。

親父はそんなあたしを一瞥し、はあと大きくため息をついた。

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