ショコラ SideStory

「お前たち、まだ時間あるんだろ? ちょっとこれから康子さんと約束してるんだ。厨房で隠れてろ」

「え? 約束あるなら帰るわよ」

「いいから。とっとと入れ。そろそろ来ちまう」


親父に追い立てられて、厨房に雪崩れ込む。
たったニ日休んだけなのに、なんか懐かしいこの匂い。
調理台の上には、今年のクリスマス限定ケーキが乗っかっていた。

ああ、そういえばクリスマスケーキは特別だって言ってたな。
今日はそれを母さんに食べさせる日だったのか。

いつもチョコレートのこってりしたケーキが多いんだけど、今年はレアチーズがベースのケーキだ。

あたしも食べたけど、酸味がきいててむしろそっけないくらいのケーキ。ただ、下に敷いてあるビスケット部分に凄くこだわっていて、濃厚なバターの風味が残る。
バラバラに食べるとちょっとイマイチ?って思ったりするけど、一緒に食べると深みがありつつさっぱりしているという、記憶に残る味になる。


「絶対に声をだすなよ」


親父はそう言い、皿に乗ったケーキを仕上げていく。

と同時に、ドアベルの音がした。
親父は何くわぬ顔でカウンターに出ていった。


「おつかれ、康子さん」

「ただいまー。疲れたわ。年末ってなんでこんなに慌ただしいのかしらね」


いつもの母さんの声。
とは言え、家を出たあの日からまともに母さんと会話していないあたしにとっては、懐かしく、なんだか胸が軋んでしまう。

ぎゅ、と手が握られて、顔をあげると宗司さんがあたしを見てる。
心配そうな顔をされていることで、あたしもしっかりしなきゃって思えた。

やがて漂ってくるのは珈琲の香り。キリマンジェロかな。よく家で嗅ぐ匂い。

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