ショコラ SideStory

 ついつい神妙な顔になっていたのかもしれない。
それまで傍観していた親父が、突然砕けた調子で話題を提供してくれた。


「今回、ウェディングケーキは香坂さんが作るんですって?」

「あ、そうなんですか?」

「ああ。一応な」


香坂さんが頬を緩める。それに対して、森宮さんは頬を膨らませて唇をとがらせた。


「……新郎なのに。私は隆二さんに頼むつもりだったんですけど」


さっきから、なんとなく森宮さんの不満気な様子が気になるんだけど。
なんか、ふたり、噛み合ってないよねぇ。


「自分のとこのホテルを使うんだから、自分で作らなくてどうするんだよ」

「でも、準備とか色々あるでしょう? 香坂さん、ただでさえ忙しいのに。前日も休まないってどういうことなんですか」

「男の準備なんて大したことないし。当日休ませてもらうんだから、前日は当然だろ。それに自分のホテルなら色々融通利くし、遠方の人のための客室だって格安でキープできたじゃないか。綺夏の親戚、喜んでいたろう」

「それはそうなんだけど」


でも森宮さんは不満気だ。会話は徐々にヒートアップしてくる。
ちょっと待って。ここで揉めだすのはどうなの。


「ま、まあまあ。ケーキといえば残り物があったんですよ。食べていきません?」


空気を読んだ親父がその場をとりなし、香坂さんと森宮さんは顔を見合わせた後気まずそうに頷いた。
その時の、森宮さんの拗ね顔はなんとなく見憶えがあった。


「詩子、ちょっと手伝え」

「はい」


あたしは、親父に促されて厨房に入る。
冷蔵庫から残り物のガトーショコラを出し、皿にのせると、親父は残っていたラズベリージャムを使って皿にお花を書き、ミントの葉っぱを添え、最後に粉砂糖を上からふりかける。
流石、一気に華やかになった。

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