ショコラ SideStory
あたしはもう二人を放っておいて店の掃除を始めた。
一段落ついたら家に帰って着替えて来なきゃ。
「詩子!」
「え? なに?」
いきなり呼ばれて驚くと、いつの間にか親父はアイシングクッキーののった皿を持っている。
「お前も俺を説得するだけの根性を見せろ。
昨日試作してみたんだが、今後オーダーでこういうのも作ろうかと思ってる。バースディケーキの飾りとか、イベント事のプレゼント用のクッキーだな。お前、これの担当にならないか?」
「え?」
「デザイン全体含めて。クッキーの形やアイシングの色柄。そういうの決めるのは得意だろう?」
「得意だけど。ペンで書くのとアイシングで書くのは別よ?」
アイシングで文字を書くのはかなり難しいわよ?
「それを出来るようになれ。お前だけが出来る何かを、接客以外で俺に見せてみろ。そうしたら、俺もお前を一人前として扱う。それが出来るまではお前はあくまで俺の娘だ」
「だから外泊もダメって?」
「当たり前だ……って言いたいところだけどな。俺は康子さんに嫌われたくない」
「……なんか言われたんだ?」
途端にシュンとしちゃう親父。
あら。こういうところは結構可愛いじゃないの。