ショコラ SideStory

香坂さんは、そのまま親父とウエディングケーキの相談で盛り上がっていたので、あたしは森宮さんにコソッと耳打ちする。


「森宮さん、四葉のクローバーの花言葉って知ってます?」

「花言葉? 葉なのに、花言葉があるの?」

「あるんですよ。“Be Mine”……私のものになって、って意味です。結婚するって色々あるけど、根っこにはこの気持ちがあるんだと思っています。いつまでもこの言葉を言えるような関係でいてくれたらって願いも込めています」

「……詩子ちゃん」

「素敵な結婚式にして下さい」


森宮さんは四葉のクローバーのクッキーをじっと見つめると、「これ、今日も貰っていいのかしら」と尋ねる。


「ええ、召し上がって下さい」

「ううん。包んでほしいの。後で彼に渡したいから」

「……わかりました。可愛いラッピングにしますね」


“私のものになって”

それはきっと、遠慮がちな森宮さんがずっと願い続けていること。

せっかくこれから一緒に暮らすんだから、ちゃんと言葉にして伝えないと、なんだか勿体ない気がしない?

透明の袋に、ベージュとパープルのリボンを二重にして結ぶ。ちょっとオシャレな感じのラッピングをして、森宮さんに渡すと、彼女は嬉しそうに微笑んだ。


「あれ。どうした綺夏。ニコニコして」

「詩子ちゃんのクッキーに感激してるんです」

「そう? じゃあ、個数多いけど頼むね、詩子ちゃん」

「はい。お任せ下さい」

「詩子ちゃん、ありがとう」


笑顔で帰っていくふたりの背中に、あたしは願いを込めて祈った。

“森宮さんの気持ちが、ちゃんと香坂さんに届きますように”


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