ショコラ SideStory
「こらこら。こんなトコで騒ぐのは辞めよう」
確かに、四十代の男女がこんな言い合いをするのは珍しいらしく、森宮ちゃんの親戚であろう人たちが見てクスクス笑っている。
「笑われたし」
「俺のせいじゃねーじゃん」
「福ちゃんのせい以外に何があるのよ」
「いい加減にしろって」
再び戦線勃発しそうな私と福ちゃんに、苛立った声を出すのは隆二くん。
実は本気で怒らすと一番怖いのが隆二くんだ。私は咳ばらいをして場を沈めた。
「ごめん」
「康子さんはこっち。福井さんはカメラマンでしょ。他の人達もほら撮って」
私を隣に引っ張り、福ちゃんに向かってシッシッと手を振る。福ちゃんは顔中にしわが寄るほど目尻を細めた。
「ハイハイ。いい年して二人共あっついねぇ」
そっぽを向いた福ちゃんは、すぐに「あ、ここは美人さん揃いですねぇ」と言いながら、黒留袖を着た集団の中に入っていった。
「……相変わらず仲いいんだな」
「誰と誰が?」
「康子さんとあのカメラマンだよ」
「なあに? 妬いてるの」
冗談で言ってみたら、隆二くんが黙った。
手持ち無沙汰に指先を動かして、空気を掴んでは忌々しそうに手首を振る。普段ならケーキを触るその指は、今は逃げ場を見つけられずに彷徨っている。
その反応、ちょっとツボにハマるかも。