ショコラ SideStory
「あ、康子さん。……と、旦那さん」
最後の方はトーンを低めにして、私に声をかけてきたのは一応元カレとなる庄司くんだ。結婚までしようとしたけど、今はお互い前の相手とヨリを戻している。
「久しぶりね、庄司くん。『山岳倶楽部』はどう?」
「楽しいですよ。仕事で山登りもできるしね。さっき福井さんいませんでした?」
「福ちゃんならあっち行ったわよ」
彼はちらり、と隆二くんを見て、小さく頭を下げてすぐに退散した。
「……あいつもいるのかよ」
「【EAST WEST】が軌道にのったのは彼のお陰もあるのよ。森宮ちゃんにとっては大事な同僚だと思うわ。もちろん私にとってもよ」
「はいはい。……なんでこんな歳になってまで嫉妬させられるのかねぇ」
ポソリと呟いて、彼は時計を確認した。
「俺、香坂さんのとこ行ってくる」
「じゃあ私も森宮ちゃんを見てくるわ」
歩き出して、化粧室に入る。その途端に、装っていた平静を保てなくなる。
ヤバイって。
今日の隆二くん、いい。
あんな風にヤキモチとか焼かれたら、私もう上に部屋とって押し倒したいくらいだけど。
って、私のほうが男みたいじゃない。もう。
ああダメ。
覚えてきた挨拶の内容忘れそう……!
落ち着け私、いい年なんだから。
肉食女子とか言うにももうおこがましいわよ。
これじゃ、ただのがっついたおばさんよ。
まずは水でも飲もう……。
パールのネックレスを直して、顔を取り繕い化粧室を出る。
ホテルの人に言うとすぐに水がもらえた。