ショコラ SideStory


「口じゃ言えないからってさ」

「何それ、つまらないわね」


そんなの面と向かって言われるからこそ嬉しいのに。

やがて、会場が一瞬暗くなり、司会のアナウンスののち、新郎新婦が入場する。
先ほどのシャンパンカラーのドレスのまま、緊張した面持ちで入場した彼女は、ケーキを見つけたときパッと顔をほころばせた。

きっと、森宮ちゃんにはこれでも嬉しいんだろうな。

人の幸せなんてそれぞれだ。
それに一時的には決められるものでもない。

どれだけ好きな人と結婚しても、いつの間にか不満が湧き出て、いつしか修復不可能になることもある。
と思ったら私たちみたいに復縁する場合もあるし、人生どう転がるかなんてわからないんだわ。


高砂のふたりはとても幸せそう。
時々見つめあって、恥ずかしそうにそっぽを向いて。
そんな様子を見て、友人席の何人かがヤジを飛ばしている。

今は地味婚が流行りだし、式なんて無駄なだけだからしないという人も多い。
私だってそうだった。
結婚式なんかより、今後の生活にお金を使いたいって思ってた。


でも……。

こうして、参列者として出席すると、しみじみと感じる。
結婚式って、自分にも他人にも『この人とこれから一緒に歩んでいく』と宣言するものなんだわ。
人生の中で、自分はいつだって主人公だけど、他人からも今日の主役はあなただと言われることはそうたくさんはない。

この日の記憶が、苦しくなった時に頑張る糧をくれるんだ。
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