ショコラ SideStory
早くしないとケーキ入刀になっちゃうわよ、と焦って言ってみたら、福ちゃんは渋々言う通りにした。
「そこだ!」
「えっ」
指さした先にいたのは、十五歳くらいの少年だった。席次表を見ると、香坂くんの甥っ子みたいだ。
「ぶっ」
黙って聞いていた隆二くんがついに吹き出し、福ちゃんが嫌そうにその背中を叩いた。
「おい、笑い事じゃねぇよ。お前の奥さん大暴走だぞ」
「いや、悪い。でも。……ぶっくっくっ。いろんな意味で犯罪だ」
「お前ー」
「きゃっ」
オーバーアクションで隆二くんに突っかかろうとした福ちゃんの腕が、通りすがりの女性にぶつかる。その拍子にクリップ止めしていただけの【カメラマン】の腕章がずれた。
「あ、すみません」
「いえいえ、大丈夫です。……あ」
彼女はにっこり笑うと、彼の腕章を綺麗に直す。
「カメラマンさん、ご苦労様です。お世話になります」
「は。はあ」
「では」
綺麗に伸びた背筋で、彼女は先ほどの少年の隣の席へと向かう。私はもう一度席次票を確認した。名前から見るに、その二人は親子のようだ。
「……あれ、香坂さんの妹さんだわ」
「あれ、でも、名字が香坂だぜ?」
確かに。
てことは可能性としては、婿をもらっているのか、同じ苗字の人と結婚したのか、はたまた離婚したのか。
どちらにせよ、彼女の夫と思しき存在はその席次表には無い。
私と隆二くんと福ちゃんが三様に顔を見合わせる。
「……案外バカにも出来ないかもよ?」
「そうね。運命って意外なところに転がってるものよ」
「バカ夫婦だな、アンタらは。……あ、やべ。ケーキ入刀になっちまう」
慌てて福ちゃんがベストショットポジションへを探しに中央へと向かう。