ショコラ SideStory


「運命って、拾うタイミングを間違えないのが大事だと思わない?」


ケーキが入刀される寸前、隆二くんに問いかけてみたら、彼はふっと私の左の薬指を持ち上げる。
スポットライトは森宮ちゃんと香坂くんを照らし、拍手がわっと鳴り響く。

……その瞬間、彼は私の指にキスをした。


「違いない」


ほんの一瞬で、とらわれてしまったような気持ちになる。

一拍遅れて拍手を始めた隆二くんに倣って、私も手を合わせる。

ほら。
主役じゃない日だって、ちゃんと運命は転がってるでしょう?







 無事披露宴も終わり、二次会とやらにちょっと顔を出し、挨拶を一通り済ませて、私と隆二くんは帰路についた。


「康子さん、会社で人気者なんだな。すげぇ囲まれた、俺」

「余計な事言ってないでしょうね」

「言ってないよ。ただ、再婚したの知らないやつもいたみたいだぜ」

「ああ。それは、面倒くさいから会社で旧姓では通しているからかな」

「ふうん」


少しふてくされたような横顔は、あまり見ない顔だ。


「……もしかして、酔ってる?」

「まあ久々に飲んだしね」

「私もよ。だからね」


腕にきゅっとしがみつく。筋肉質の腕。隆二くんの体の中で、腕から指にかけてが一番好きだ。


「ちゃんと家まで連れて帰ってね」


彼の口元が緩む。おでこのあたりに、小さなキス。しがみついた腕はほどかれて、代わりに肩をがっちりと抱かれた。

今日の主役は森宮ちゃんと香坂くん。
それでも、私はいつだって隆二くんのヒロイン。
再婚してからの一年で、ようやくそんな風に思える自信がついた気がする。


「帰ったら一緒にクッキー食べましょうか」

「詩子の作ったやつか? 俺、味見で結構食ったけど」

「詩子に聞いたのよ。結構色々な意味が込められたラッキーモチーフなんだって。大事な人と食べてねって言われたわよ」

「大事な人?」

「そうよ」

「……ふうん」


肩を掴む腕に力が入る。
あなたが喜んでいることなんて、もうとっくにお見通しだわ。

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