ショコラ SideStory
「運命って、拾うタイミングを間違えないのが大事だと思わない?」
ケーキが入刀される寸前、隆二くんに問いかけてみたら、彼はふっと私の左の薬指を持ち上げる。
スポットライトは森宮ちゃんと香坂くんを照らし、拍手がわっと鳴り響く。
……その瞬間、彼は私の指にキスをした。
「違いない」
ほんの一瞬で、とらわれてしまったような気持ちになる。
一拍遅れて拍手を始めた隆二くんに倣って、私も手を合わせる。
ほら。
主役じゃない日だって、ちゃんと運命は転がってるでしょう?
*
無事披露宴も終わり、二次会とやらにちょっと顔を出し、挨拶を一通り済ませて、私と隆二くんは帰路についた。
「康子さん、会社で人気者なんだな。すげぇ囲まれた、俺」
「余計な事言ってないでしょうね」
「言ってないよ。ただ、再婚したの知らないやつもいたみたいだぜ」
「ああ。それは、面倒くさいから会社で旧姓では通しているからかな」
「ふうん」
少しふてくされたような横顔は、あまり見ない顔だ。
「……もしかして、酔ってる?」
「まあ久々に飲んだしね」
「私もよ。だからね」
腕にきゅっとしがみつく。筋肉質の腕。隆二くんの体の中で、腕から指にかけてが一番好きだ。
「ちゃんと家まで連れて帰ってね」
彼の口元が緩む。おでこのあたりに、小さなキス。しがみついた腕はほどかれて、代わりに肩をがっちりと抱かれた。
今日の主役は森宮ちゃんと香坂くん。
それでも、私はいつだって隆二くんのヒロイン。
再婚してからの一年で、ようやくそんな風に思える自信がついた気がする。
「帰ったら一緒にクッキー食べましょうか」
「詩子の作ったやつか? 俺、味見で結構食ったけど」
「詩子に聞いたのよ。結構色々な意味が込められたラッキーモチーフなんだって。大事な人と食べてねって言われたわよ」
「大事な人?」
「そうよ」
「……ふうん」
肩を掴む腕に力が入る。
あなたが喜んでいることなんて、もうとっくにお見通しだわ。