ショコラ SideStory
*
そして三月。
詩子の出発の日がやってくる。
自宅からではなく『ショコラ』からの出発になったのは、隆二くんが早朝からケーキを焼いているからだ。
私と詩子で『ショコラ』まで行き、そこで宗司くんとも合流する手はずになっている。
こんな日くらい隆二くんも仕事を遅らせればいいのに、と思ったけれど、満足そうな詩子の顔を見ていればこれでよかったような気もする。
きっとこの子も家より店の方が愛着があるのだろう。
高校時代の手伝いから含めたら、十年近い年月を店で過ごしているんだものね。
隆二くんにいつも通りの生活をされることが、もしかしたら詩子は一番安心できるのかもしれない。
「店に下宿させてもらえるんだっけ?」
「そう。香坂さんが言うには、全部話は通してあるから心配せず身一つで行けって」
あの人いつも説明不足だから、不安はあるけどね。
と言いつつ、詩子の顔は笑ってる。
何かに挑戦しようとしているときの人間の顔はいつだって魅力的だ。仕事柄、取材とかでそういう人たちをたくさん見てきたけど、今の詩子にはそれに通ずるところがあると思う。
「おはよ。来たわよー」
ショコラの扉をくぐると、すでに店内にいた宗司くんが振り向く。少しクマができていて、疲れているように見える。まあ、彼女と遠距離になるのに元気な男もあんまりいないか。
そして三月。
詩子の出発の日がやってくる。
自宅からではなく『ショコラ』からの出発になったのは、隆二くんが早朝からケーキを焼いているからだ。
私と詩子で『ショコラ』まで行き、そこで宗司くんとも合流する手はずになっている。
こんな日くらい隆二くんも仕事を遅らせればいいのに、と思ったけれど、満足そうな詩子の顔を見ていればこれでよかったような気もする。
きっとこの子も家より店の方が愛着があるのだろう。
高校時代の手伝いから含めたら、十年近い年月を店で過ごしているんだものね。
隆二くんにいつも通りの生活をされることが、もしかしたら詩子は一番安心できるのかもしれない。
「店に下宿させてもらえるんだっけ?」
「そう。香坂さんが言うには、全部話は通してあるから心配せず身一つで行けって」
あの人いつも説明不足だから、不安はあるけどね。
と言いつつ、詩子の顔は笑ってる。
何かに挑戦しようとしているときの人間の顔はいつだって魅力的だ。仕事柄、取材とかでそういう人たちをたくさん見てきたけど、今の詩子にはそれに通ずるところがあると思う。
「おはよ。来たわよー」
ショコラの扉をくぐると、すでに店内にいた宗司くんが振り向く。少しクマができていて、疲れているように見える。まあ、彼女と遠距離になるのに元気な男もあんまりいないか。