ショコラ SideStory
そんなわけで、今は空いている雪音さんが独身時代に使っていた部屋が、あたしの新しい部屋となる。
案内してもらったそこは、昨日まで住んでいたんじゃないっていうくらいきちんと整えられていた。
もともとあったらしいベッドに、折り皺のついた真新しいシーツが敷かれていて、スカスカの本棚には料理本がいくつか差し込まれている。
「可愛い部屋」
「気に入ってくれた? 若い女の子の好みってわからなくて、シンプルなシーツにしちゃったけどごめんね」
「いえ。そんな、わざわざ買ってくれるなんて」
ドアノブや窓の桟とかも、触ったときにざらついた感じがない。それはつまり、最近水拭きされたということで……。
「ちゃんと準備してくださってありがとうございます」
「いえいえ、最低限だけよ」
でも雪音さん、身重の体なのに。
あたしのために、ちゃんと部屋を片づけて、整えてくれたんだ。
「小さいけどお風呂もあるし、キッチンは店のと兼用だから。他にもあるものは自由に使ってくれていいんだけど、電話は店のものだから長電話はやめてね」
「携帯を使います」
「お願いね。毎日の遠距離電話代は経費じゃ負担できないからさー」
香坂さんが余計な事でも言ったんだろうか。
含みのある笑みを見せられて困ってしまう。
十八時になると早々に店を閉め、「今日は一緒に食べようね」と雪音さんが作ってくれた夕食を一緒に食べた。
片づけたところでふたりは帰り、あたしは改めて自分の城となる部屋に入った。