ショコラ SideStory
スマホを取り出し、画面を眺める。
表示されている時間は二十一時半。
仕事は終わったはず。ただ、まだ片付けている時間かも知れない。
でもこれ以上、待っていられない。
呼び出し音を聞いている間に、まぶたに彼の姿が浮かぶ。
途端に肩のあたりからじわじわ疲労感がにじんできた。あたし、もしかしたら結構緊張していたのかもしれない。
『もしもし?』
いつもと変わらない宗司さんの声。
「宗司さん? あたし」
『詩子さん。引っ越しお疲れ。どう? そっち』
「空気が綺麗だわ。景色がすごいの、夜景とかすごく綺麗。オーナーさんもすごくいい人でね。あたし、うまくやれそうな気がするわ。それから……」
宗司さんの声を聴いた途端、言葉が口から溢れ出した。
宗司さんが相槌打つ暇さえないくらいじゃない。落ち着けあたし。
そう思っても止まらない。
だって聞いてほしかった。
今まで、親父に守られてきたあたしが触れた、外の世界。刺激的で楽しくて、でもやっぱり寂しくもあって。宗司さんに聞いてもらえたら、ふわふわ浮いているような感覚が、地面に落ち着いてくれるような気がして。
「まだ不安はあるけど、あたし、頑張れると思う」
『そうか。よかった』
自分にも言い聞かせるように宣言したら、なんだかとても安心した。
と、同時に、急激に睡魔が襲ってくる。
「でね。……ふあぁ」
『詩子さん、眠い?』
「ごめん。なんか急にあくびが」
あくびと同時に目尻ににじんだ涙を手の腹でふき取る。
ああでも、なんか手を動かすのもだんだん億劫になってきた。