ショコラ SideStory
雪音さんが玲央さんにメールを入れると、「お昼には持ってく」とすぐに返事が来た。
「お昼って、お仕事大丈夫なんですか?」
「玲央の仕事、結構外回りもあるのよ。打ち合わせの移動の途中とかで寄るつもりなんでしょ」
「それは助かりますけど」
結構自由なんだなってことにびっくりよ。
「今度の定休日、安い店とか案内してあげるね」
雪音さんは、結構ドライで深入りしてこないけれど、大事なところはちゃんと気遣ってくれる。
だからあたしは、自分が思うよりもずっと早くこの生活に慣れることができた。
ただ、仕事に関しては少しも甘くない。
「だめ、やり直し」
「はい」
「ここ、崩れているでしょ? 最後まで気を抜かないで。これじゃ、値段つけられない」
「すみません」
あたしはやっぱり、親父のもとで甘やかされてきたんだと思う。
親父も、ダメなものは店には出してくれなかったけれど、敢えてあたしに口で言うことはなかった。
「詩子ちゃん、プロなんだからね。甘えないで」
「はい」
冷徹に言い切られると泣きたくなるけど、泣くもんか。
ここに来た意味を見失いたくない。楽しむために来たわけじゃない。あたしは腕を上げるためにここに来たんだから。
とはいえ、ストレスというものは体に蓄積していくもので、その解消法が、あたしにとっては電話だった。
通話代がいくらかかるか考えただけで怖いけど、毎日起きる新しいことに、くじけそうになる自分の気持ちに、宗司さんの声を聴いていると折り合いをつけることができたから。