ショコラ SideStory
慌ただしく彼の実家から戻ってきたとき、雪音さんがさすがに申し訳ないと思ったのか、あたしにおもむろに頭を下げた。
「ごめんね。子育て甘くみてた」
「いえいえ」
「赤ん坊ってこんなに手がかかるもんなのね」
玲央さんが甲斐甲斐しく世話を焼いてくれるらしいけれど、赤ちゃんはミルクを嫌がるらしく、おっぱいを上げなきゃならない雪音さんは夜もゆっくり寝られないのだそう。
「やっぱり詩子ちゃんに来てもらってよかったなぁ」
「そういってもらえると嬉しいです。あたしも、このお花絞りが上手にできるようになったの嬉しい」
割と需要のある花束のアイシングクッキー。
この花が綺麗にできなくて何度泣かされたことか。
他にも細かいレース模様とか、本物そっくりのラベンダーとか、今まで挑戦しては挫折していたものが、雪音さんのしごきのお陰でほとんど作れるようになった。
「一年なんかじゃ勿体なかったかもなぁ。詩子ちゃんずっといない?」
「すみません。ダメです」
「彼氏もこっちで塾開けばいいじゃん」
いつも玲央さんを振り回している雪音さんならではの発想に笑ってしまう。
「でもやっぱりあそこじゃないとダメです。彼が……というよりは、そこに親父がいるから」
今までできなかった細工ができるようになったとき、必ず思い出したのは親父の事。
真剣にアイシングクッキーに取り組むようになってから、あたしは無意識に親父を目標にしていたことに気づいた。
親父に認められたい。
驚くぐらいなものを作れるようになりたい。
『ショコラ』という親父が作った場所を、支えられるようなものをあたしだって作りたい。