ショコラ SideStory

* * * 


【この時期はいつも落ち着きません。それでも一年間頑張り続けた成果を胸に受験に向かう生徒たちは、不安そうだけど自信たっぷりでもあって、俺はその姿に、なぜか詩子さんを思い出します】


最後の手紙に書かれた言葉を、反芻する。
あたしも受験生みたいなもんだ。この一年の成果をこれから試されるんだから。

重い荷物を手に、今あたしは駅からの道を歩いてきている。

雪音さんたちに駅まで送ってもらう都合で、あたしは夕方の新幹線で戻ってきた。
『ショコラ』も『松川塾』も営業時間だから迎えはなく、少しだけ寂しい気分で歩いている。

北風があたしの頬を撫でつけていく。
リンゴみたいに赤くなっているんじゃないかと心配になったりして。


半泣きになってくれた玲央さんと、無理に元気そうな声を出していた雪音さんを思い出す。まだお話しできないふたりの息子さんの尚人(なおと)くんはあたしにすっかり懐いてくれていたけど、お別れが分からないのかキョトンとした顔で見ているだけだった。

あの家族に出会えてよかったと思う。少なくとも一年前よりは自分の腕に自信が持てるようになった。
紹介してくれた香坂さんにも感謝しなくちゃ。


「ただいま」


扉を開けると、鈴の音が鳴る。
開店以来ずっと、客の往来を告げる優しい音。


「詩子、お帰り」


まずはマサがあたしを見つけて、にかっと笑いかける。懐かしさに、相手がマサなのにも関わらずちょっとときめいてしまったのがなんだか嫌で、苦笑いしてしまう。

< 421 / 432 >

この作品をシェア

pagetop