ショコラ SideStory
「……おう」
そのとき、厨房から親父が出てきた。
照れくさそうに笑って、差し出されたのは半円形をしたクッキーだ。
「これ食ってみろ」
せっかく娘が帰ってきたのに、お帰りくらいないわけ?
とは思ったけど、マサもマツさんもにやにやしながら見ているから、あたしは仕方なく一つ口に放り込んだ。
クッキーは予想外に固い。
そして噛みきったときに、カサリと音が聞こえた。
「フォーチュンクッキー?」
アイドルグループの歌でも有名になった、占い入りのクッキーのことだ。
「占いじゃないけどな」
行儀悪いけど、口から紙を取り出す。
そこに【おかえり】と書いてあった。
「……父さん」
なにこの、恥ずかしがり屋の女子中学生みたいな演出。
「なんだ」
「ごめん、おかしい」
笑いだしたら止まらなくなった。お腹が痛い。よじれそう。
会わない間に、あたしの中ではすごく格が上がっていたのに、実際にあったらこれだもの。
「お前がいない間、クッキーはそれで誤魔化してたんだ。明日からはアイシングクッキー再開だぞ。早速メニュー作れ。それに関して俺は手出ししない」
「父さん」
「ギフトクッキーについては詩子に任せる。お前が責任者だ」
伸ばされた右手。あたしはおずおずと手を伸ばし、親父の手をしっかり握る。
あ、やっぱりマメがある。
そう思って、なんだか懐かしいような気分になって、笑ったつもりだったけど涙が出そうになった。
あたしの周りにいる人は、みんなちゃんとプロなんだ。
あたしは彼らの上る階段の一番下に、ようやく立つことができた。