ショコラ SideStory

やがて、控えめなノック音がした。


「詩子、準備できたか」

「ああ隆二くん、入ってらっしゃいよ」


どうやら親父のようだ。母さんに招かれて中に入ってきた親父はすでに目を赤くしている。
「お、おお」と呟き、目尻に涙を浮かべている。見た瞬間から先ほどまでの高揚が一転、気分が低下してきた。


「ウザい」

「冷たいぞ詩子」


あったかくなる必要もないでしょうよ。
式も終わりのころになら泣かれたっていいけど、始まる前から泣かれたらウザいに決まっている。
まして嫁に行くってったって今まで通り職場は一緒で家だってそんな遠くないわよ。泣かれる意味が分からない。

しかしそんなあたしの言い分は親父には伝わらないらしい。
目尻をぬぐってもまた沸き上がる滴を瞳に溜めたまま、あたしを舐めるように眺める。


「いやあ、感無量だなぁ。ドレスも似合ってるじゃないか」

「このドレス、宗司さんが選んだのよ」

「何? ……なんだ、その、まあ、あいつもやるじゃないか」


なんでそこは上からなのよ。全く男というものは面倒くさい。
“老いては子に従え”よ。少しは宗司さんを立てたらどうなんだ。


「ところで、宗司といえば。廊下でやきもきしながら待ってるぞ?」

「え?」

「式が始まる前にじっくり見たいんだと」

「なんだ」


だったら、入ってこればいいじゃないの。
夫なんだから遠慮なんかいらないのに。

むしろ親父の方が遠慮しろよって感じよ。

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