ショコラ SideStory
にやにや笑う父さんと母さんの視線から逃れるように、あたしは控室を出た。
廊下の壁に体を預けていたシルバーグレーのタキシードに身を包んだ宗司さんが、すぐにあたしに気づいて顔を上げる。
一瞬、見とれた。
だって、よくよく考えたら、正装した宗司さんを見ることなんて、今までなかったんだもの。
スーツ姿くらいなら見たことあるけれど、そのときは髪型はいつも通りだったし。
いつもと違って、柔らかな髪が後ろに流されていて、顔がよく見える。
普段は前髪で隠れている静かな中にも力のある瞳に見つめられて、なんだか吸い込まれるような気持ちになった。
熱くなる頬にドギマギしながらあたしたちはぎこちなく近づいた。
宗司さんは頬を緩めて、柔らかい笑顔であたしを迎え入れる。
「詩子さん、すごく綺麗だ」
「や、宗司さんも……」
格好いいよ、という声がなんでかしぼんでしまう。
肩幅もあるし背も高い。今まで前髪で隠れていた眉はりりしくて、男らしい。
嘘、ここで認識する?
宗司さんってこんなに格好良かったんだっけ。
それとも、結婚式の雰囲気に酔って、あたしの目が色ボケしちゃったの?
「緊張するから、先に誓っておこうと思って」
「誓うって何を?」
「神様より誰より、詩子さんに誓う。君を一生大切に想うって」
左手を持ち上げられて、薬指にキスをされる。
今はお式のために結婚指輪は預けてあるからあたしの指には何もないけど、彼の気持ちがそこに巻き付いたように指の付け根に彼の存在を感じる。
心臓が落ち着かない。喜びで震えるあたしの胸は、ジワリと熱を帯びていく。
あたしも、彼の指の付け根にお返しのキスを返した。
「だったら、あたしも誓うわ。あたしは一生あなたを振り回すかもしれないけど、ずっと大好きでいる」
「ははっ、詩子さんらしいや」
ここが廊下じゃなきゃ、キスの一つもしたいところなのに。
でも、これでお化粧が崩れたら、三輪さんにどんなお叱りを受けるか分からないから、ちょうどいいのかもしれないわね。
小さく笑って掌を重ね合わせる。
あたしたちの厳かな誓いの時間は、そのすぐ後に控室から出てきた親父によって、あっさり終わりを迎えてしまったんだけどね。