だってキミが好きだった
「……それなら話は早い」
再び私と目線を合わせる千歳さんの目は、やっぱり悲しみを帯びている。
それでも真っ直ぐ、真剣。
だからこそ、これから千歳さんが言う言葉が、真剣に考えて出すその言葉が、
私は、怖い。
「兄貴として俺はアイツにいけねぇことをした。記憶を無くして、片目まで無くして。一番辛いのはアイツだってのに……」
そんなことない。
確かに彼は十分傷ついた、傷つきすぎた。
だけどそれはあなたもだ。
「……だから菫みたいに会わねぇといけねぇと思った。それでも俺は臆病だったから中々いけなかったんだ。実際会ったのは菫に“千早に会ってくれ”って言った少し後」
なる、ほど。
それじゃあ1ヶ月前のあの時はまだ会ってなかったのか。
「久々に会って、あの時よりマシになってた千早を見て安心した」
フッと目を細めて笑う。
その姿は本当に嬉しそうで……弟が大事なんだな、と一目で分かった。
が、
「……けど、」
その姿は一瞬にしてなくなる。
一瞬にして、また“悲しみ”へと変わってしまった。
「千早……夜に暴れまくってたんだよ」
悔しさ、悲しさ、後悔。
色々な感情が千歳さんの表情から読み取れて、ギュッと固く拳を握ったその手は小刻みに震えていた。
あぁきっと。
あの夜見た彼の姿だ。
前から、暴れてたのか。
「あの姿、昔の俺みたいだった。まるでもがき苦しんでるみたいで見てられねぇ、あんなの」
奥歯を噛み締めて言う千歳さんは、きっと怒っているんだろう。
千歳さんは、彼に昔の自分みたいにはなってもらいたくなかったから。