だってキミが好きだった
ただただ、千歳さんの目を見る。
テーブルの上に置いている両手は知らぬ間に震えていて。
でもどうして震えているのか全く分からない。
「ごめんな菫。……けどな、見てられねぇんだよ」
そう言う千歳さんは眉を下げて、悲しそうに瞳を揺らす。
くしゃりと歪むその顔を見れば、
まるで千歳さんと同じ気持ちを感じているかのように、胸が締め付けられた。
千歳さんの表情から。
声から。
瞳から。
大きな悲しみが、伝わってくる。
「……俺が千早から逃げたのは知ってんだろ?」
「……」
それは知ってる。
聞いたから。
“千歳ね、出て行ったの”
今でも思い出せるあの会話。
“千歳ね……千早が、見ていられなくなっちゃったみたい”
少し声が震えていて、今にも泣き出しそうだった。
千歳さんのお母さんから聞いたその話にあの時の私はただ驚いたのを覚えている。
「……知っています」
「そうか」
それだけ言った千歳さんは悲しみを隠す様に目を伏せる。