不思議電波塔
ルナは「右、左の話じゃないわね」と言い捨てた。
「うちは家に帰ると兄が『身内は大切にするものが当たり前だ』と言って、右でいることを強制した。外では政府の連中や、貧しさに困っている人たちが左や右であることをそれぞれ他人に課して、少しでもいいものを奪おうと必死になっていた。私は自分の身体を鍛えたわ。自分で狩りが出来る身体になれるように。右の世の中になろうと左の世の中になろうと、世の中の仕組みが『吸い上げる要領のいい人間だけが豊かになる』ものでしかないなら、どんな論議をしたって無駄よ。あなたは何なの、尾形晴。由貴は私たちの物語をきちんと作り、住まわせてくれたわ。あなたは理由にもならないような論理を振りかざして、他人の命を弄んでいるだけじゃない!」
尾形晴はおもしろおかしいことのように『ふーん』と笑った。
『いいこと教えてあげようか。僕はね、ひとりじゃないんだよ。他人のものを出来るなら利用したいし、潰せるものなら潰したいっていう思いを持つ人間の想念の集合体。そういう人間が多ければ多いほど、僕の力は増す。人間って知性あるゆえに、地球を七回転するくらいに行き過ぎたところに着地しちゃって、全然知的じゃなくなってるよねー。ただのケダモノなんじゃないの?君たちも、こんなこと言っていると潰されるだけだし、悪いことは言わないから、そういう腹黒連中の擬態でも出来るように考え直した方が身のためだよ。擬態ってわかる?攻撃されないために頭を使えってこと。それも出来ないくらいに清らか過ぎるなら、もうダメだね』
「黙ってろ」
カイが一蹴した。
「俺は眠る場所は自分で決める。ダメなのかダメじゃないのかも自分で判断する。勝手に人のことを頭から決めつける独裁者なんかに魂を売り渡す趣味はない」