不思議電波塔



「愚者と魔術師の部屋はまだ生きているようだったのに…」

 忍が呟く。四季が言った。

「さっきの部屋で、僕たちはそれぞれに思ったことを話した。それがすべて。それで魔術師の向こうの部屋が色褪せているんだよ。由貴の世界はタロットカードにおさまるようなものではないと思う。もっと自由だ。0と1は物事の基本だから万物にも当てはまる。2以上になると無限にあるから、その先は暇人でもない限り、数える必要はない」

 ジャスティが振り返る。

「クマさんとキノコだけはついてくるけど、どうして?」

「おいらはカウフェリン・フェネスの住人ではないからね。どうもこちらの世界はおいらには住みにくそうだし、地球の水が良さそうだ」

「ふーん…。クマさんは晴くんの友達なの?」

「んにゃ。おいら、浮気して嫁さんに怒られてポリバケツに捨てられて困ったなぁと思っていたら、通りすがりの晴くんに、眠る場所ないなら来る?って面白半分に拾われて、今度はクマのぬいぐるみになってしまったわけよ」

「ポリバケツ?」

「ゴミとか空き缶とか捨てる青い容器よ。ああ、カウフェリン・フェネス住人はそんなもん知らないんだっけか」

「うん。知らなーい」

「あー…。おいらは何故こんなところで見知らぬ子供にうちの話なんかしているんだろうか…」

 ぽてぽて歩き、ため息をつく後ろ姿に哀愁が漂うが、姿が姿なので可愛らしい。

 カイが笑った。

「元気出せー。つか、その姿で黄昏ていると、笑えるんだけど」

「あー…。家帰りたくねー」

「クマさん、ふぁいと」

 ジャスティが声援を送った。

「ふぁいとね。ありがとね」

 クマは愛嬌のある仕種でぬいぐるみの手を振る。

「しかし、この形ばかりのカードの檻、動いてないんじゃ向こうには戻れないんじゃ?」

 ──刹那。

「生きて帰れると思うのか」

 女教皇、女帝、皇帝、法皇の声が重なった。

 シュパーンと音を立て、クマを目掛けて、彼らの目から光線が飛んだ。

「ひぃぃぃっっ」

 立っていたすぐそばに光線は命中し、クマは飛び上がる。

「何これ?デッド・オア・アライヴ?おいら、こんなサバイバルなんて聞いてませんから!」



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