不思議電波塔
その時である。
ゴゴゴゴゴ──。
地鳴りとともに、5つの門が姿を変えた。
空には太陽と星が同時に光を放ち、由貴たちの足元は水面になった。
泉のようだ。
泉を囲むように美しい緑が生い茂り、まるで春が来たように自然が歌いはじめる。
泉の中央には高い塔が聳え、その塔の前には一対の恋人の像が佇んでいた。
「青龍の森だ」
由貴が呆然と呟く。
ハロンに向かったはずなのに、何故。
答えたのは青龍の目だった。
『生きるということは何なのかと問われた時、そなたは心にこの森を思い描いたであろう。それが答えだ』
涼は笑顔になった。
「よかった。涼の生きるということは会長の世界があるということ」
「──涼」
「会長について行ってもいい?」
由貴は頷いた。
その瞬間。
ダーン、とピアノの鳴る音がした。音楽の雨が降り始める。
四季は耳をすませ、知っているはずの音楽が奇妙なことになっていることに気づく。
「──ワルトシュタイン」
「え?」
「ワルトシュタインが、逆の鳴り方をしてる。第3楽章の最後の和音から、逆の旋律を辿るように」
「何だそれ…」
晴の声がそこで響き渡った。
『君たちの門だよ。不思議電波塔。本物を使うのはダメだってシェネアムーンに断られたからさ、まったく同じように作ってみた。これは偽物だけど、この塔の最上階まで到達したら、本物の不思議電波塔と地球に繋がるようになっている。ハロンにも。四季、ワルトシュタイン、弾けるよね?由貴は運動方面、自信あると思うから、崩れかけてる塔の階段、急いで登って来て。到達出来なかったら、ジ・エンドね。あ、今ワルトシュタインが逆に鳴ってるでしょ?これ、最初の音まで到達してしまったら、塔の階段全部崩れるから。塔の何処かの部屋にピアノがあるから、みんなで探して、その時鳴っているワルトシュタインの音から、全部四季が弾き直して。ミスタッチあったら階段もそれだけ崩れるからね。桜沢涼と揺葉忍は彼氏について行くんだよね?クリアが楽になるような仕掛けを隠しているから、頑張って。塔の前の恋人の像の前は、本当に想い合っている恋人同士なら通れるけど、そうではない人たちは、どちらか一方が制裁受けるからね。覚悟して。それじゃ、クリア出来たら会おうね』