不思議電波塔
涼は絵を通り抜け、由貴のところへと戻った。
「涼、お疲れさま」
由貴の後ろには、さっき見かけなかった絵が新たに出現していて、その中で忍が手を振った。
『涼、お疲れさま。聴いてたわ』
「忍ちゃん」
涼は安心したように笑った。
「忍ちゃんは何処にいるの?」
『5階。ここは塔の内側の方なの。由貴と涼は塔の窓際に沿った階段を歩いてきたみたいね。私と四季は2階から、部屋の中央の螺旋階段を登ってきたの。私の今いる部屋は各階の様子が見られる絵が壁に並んでいるわ。その絵にワープ出来る仕掛けがあるみたい』
『横槍、ちょっといいかな?』
尾形晴の声が降ってきた。
『頑張ってきた君たちにヒントね。揺葉忍のいる5階の部屋には、人はひとりいた方がいいね。四季のことを考えると。後のふたりは上を目指して。──以上』
晴の声は、四季の弾くワルトシュタイン同様、塔の中に響き渡った。
晴の声は四季にも聴こえたはずだ。
「上を目指せって…」
『ここにもまだ上に続く階段があるわ。どちらかからしか行けない階段なのかしら?』
それは考えてはいなかったことだった。由貴はしばし考え、答えた。
「外側の階段、内側の階段、両方から行ってみよう。何か仕掛けがあるのかもしれない。俺は外側から行く。いい?」
『待って、由貴。そちらの外側の階段にもひとりは人がいないと、ダメだと思うの。由貴が外側の階段を登って涼が5階の部屋に来たら、ピアノの部屋の絵が無くなることになるから、四季がワープ出来なくなってしまう』
それはそうだ。
『私がそこへ行けば5階の部屋に人がいなくなってしまう。5階の部屋に人がいるから、そちらに新しい絵が出現したはずなの。だから、ここに人がいなくなると、そちらから5階の部屋に来ることも出来なくなってしまう』
「忍、ちょっとその部屋見ていい?涼、そこで待っていてもらっていい?」
「うん」
由貴は絵を通り抜け、5階の部屋に移動した。