不思議電波塔
由貴は5階の部屋を見回して納得した。
「そうか…。これでワープ出来るようになってるんだ」
「由貴がさっきいたところはこの絵。8階くらいまで登って来ていたはずなの。ここには絵は出現しなかったのよね?」
「うん。声が聴こえただけだった」
「外側の階段は絵が出現するところとしないところがあるのかしら?」
「四季を3階で休ませていて、出現した絵で5階にワープ出来たって言ってたしね」
「そう。でもそれを内側の部屋の各階で出来るのか確認するのには時間が足りないわ」
「ここにある絵に何かヒントがないか見てみよう。──あ…」
「どうしたの?」
「忍、ここにも四季が映ってる」
由貴が指差したのは、恋人の像の絵の隣りに配置された、一階の絵だった。
さっきまでの一階の絵とは異なり、ピアノを弾いている四季がいるのだ。
そういえば一階の部屋の扉は開かなかった。それが、絵の仕掛けが作動して、この絵に切り替わったのだろう。
「これ、扉が開かなかった部屋よ。四季、一階で弾いているんだわ。確かにワープでも使わない限り、四季がピアノを弾き終えてから階段を上るのは難しい」
「だから5階には人がひとりは必要なんだ」
「それなら、外側の階段には人がいなくても大丈夫だわ。1階の絵からワープは可能だから。由貴、外側の階段を行って。私は、内側の階段を行くから。涼よりは私の方が体力はあるし。涼に5階の部屋にいてもらうことにする」
「わかった」
由貴は外側の階段に戻り、涼は5階の部屋に移動した。
既にワルトシュタインは第3楽章を奏で始めていた。
由貴と忍は階段を上り始めた。