不思議電波塔



「そう考えると何だか悲しいね」

「悲しみに浸っていられない人間もいるし、感傷を抱えていられなくなるほど擦り切れてしまっている人間もいるし、貪欲な人間もいるし──繊細な心のひだや恥や外聞なんかを邪魔なものとして捨ててきている人は多いんだよ。たぶん。俺は悲観的というのでもなく、あるがままに見てみたらそうなんじゃないかなって思うだけなんだけど。でも何もかも捨ててきてしまったが故に、みんなで失望の淵にいる状況って何かおかしくない?って気もする。足の引っ張り合いをして全員で消耗しているだけとか。他に出来ることあるかもしれないのに」

「会長の小説はファンタジーだけど、考えていることは現実で経験してきたことが素材になって、それが現実とは違う形に昇華されて表現されているのね」

「うん。空想や理想だけを追いかけても、現実だけを追いかけても、人は虚しさを感じると思う。心と身体が切り離されてしまったら、それは死んでいるか、人とは違うものになってしまっているかのどちらかでしかないよ」

「心と身体が切り離されてしまったら──そうかもしれない」

「涼は『世界を律するもの』って何だと思う?」

 由貴に問われ、涼は一瞬遠い目をした。由貴に視線を戻す。

「会長…がいること?会長が声も歌も発していないのに、涼は会長を見て嬉しいなって思っている。もし涼が涼じゃなければ会長を見ても何も思わなかったかもしれないし、会長が会長でなければ涼は今こんなことを話していることはないと思う。それが会長が会長で涼が涼で、お互いが認識している『相手がある』世界があるということ」



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