年下の不良くん
まだ会長になる前の方が楽だった
俺に人を引っ張れる程の、父のような力は備わってはいないだろう
だが、会長になることは俺の宿命であり、運命である
逃れる事を許さない人生に、俺は早くも嫌気がさしていた
──ブッーブッーブッー
ジャケットのポケットに入っているケータイが、俺を会社に戻るようにと知らせる
「……チッ、もうか」
俺は重い腰を起こして、のろのろと会社に戻った
──数時間後、夕暮れ時に受付から連絡が入った
どうやら俺宛に若い女が来ているらしいのだが、全く誰なのか検討もつかない
いちおう職務を中断して下りると、ロビーに置いてあるソファーに例の女が座っていた
向こうは俺に気づくと軽く会釈してきたので、俺もそれを返して真向かいに座った
見たことのない女だった
……だけど、綺麗だと、素直にそう思った
「仕事中にすみません
でも、これが落ちていたので…」
そう言ってスッと差し出されたのは、俺の社員証
本音を言えばこれはただの飾りで、会長となれば顔パスで通れる為、合っても無くても構わない
「わざわざすいません」
きっと抜け出した時に行った公園か、そこまでの道で落としたに違いない
こんな物の為に、得体の知れない男まで直接届けに来るなど、この女は肝が座っているなと感じた