ルージュ1/50
ルージュ1/50
規則的な波の音に混じって、水音が聴こえる。
私は瞳を閉じたまま、遠い意識で耳を澄ませる。
細やかな水滴が落ちる音。
きっとシャワーを浴びているのだろう。


片方の頬でシーツの感触を味わいながら、とろとろと微睡む。
気怠さがさっきまでの時間を物語っていた。
私はゆるゆると、この眠りに落ちきらない感覚に漂う。


やがてドアが音と共に開き、湿った熱を帯びた空気が私の肌を包む。
うつ伏せる私のすぐ側に、彼の重みを感じ私は薄く目を開ける。
温められた彼の肌。
きっとまだ水滴が沢山光っているはず。
だって、彼はいつもそうだから。





「そろそろ時間、大丈夫かい?」





私は定まらない意識で頭を起こし、サイドテーブルの上に置いた携帯を手にして時間を確認した。





「そうね…もう、行かなきゃ。」





熱めのシャワーで、なかば強引に覚めきらぬ意識を現実へと引き戻す。
化粧水で潤う肌に、ファンデーションを乗せて、眉尻をペンシルで描き眉頭の粉ををブラシでぼかした。
口紅のケースを開けようとした時、彼が私の名前を呼んだ。
紅筆の先をしならせて色を取りながら、今日の後輩との会話を思い出した。
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