こわれもの
心理的に長い道のりを経て、アスカはヒロトのアパート前に着いた。
インターホンを押す指が震えるが、ここまで来た以上、後には引けない。
“なるようになれ!!”
思い切って押したが、反応はなかった。
1回押したことで吹っ切れたのか、アスカは2回、3回と、軽快にインターホンのボタンを押した。
「……いない?」
駐車場にはヒロトの車があるので、いないはずはない。
雪の積もるアパート前。
アスカ以外の足跡がなかったので、ヒロトは外出せず中にいたのだろうと、うかがえる。
何かにとりつかれたかのように、アスカはインターホンを連打した。
すっかり冷たくなった指に押す時の反動がきて、やや痛い。
4回、5回、6回と、続けざまに呼び出してみる。
「……アスカ?」
中から、ヒロトのくぐもった声が聞こえた。
「ヒロちゃん……!
うん! 私だよ」
アスカはわざと、明るい調子で言った。
「開けて……!
外、めっちゃ雪降っててさぁ。
そっちの窓からも見えない?
寒いよぉ!」
やけに静かな雪景色に、アスカの声が悲しく反響した。