『若恋』若恋編



「りおを先に部屋へ」

「わかった」



仁は後は何も言わずにりおを先に屋敷に連れて行った。

その姿を見送り、

「……若、何かあったんですか?」

榊が渋い表情で振り返った。


「………」


まだ腹の底にどす黒い穴が空いている。



「……夢を見た」

「もしかして、りおさんの夢ですか?」

「……ああ」



タバコを胸から取り出すと、
「失礼します」

横から取り上げられた。



「死にたいんですか」

「………」

「たかが夢です。何の夢を見たか知りませんが」

「………」


取り上げたタバコを榊が箱に戻す。




「……榊、俺はもう限界かもしれねぇ」

「ええ、若を見てればわかります」

「夢にも、りおを狙うヤツにも、あいつにも」

「そうですね」



わかってる。

もう気持ちに余裕がないことを誰よりもわかってる。

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