桜の咲く頃に
「あたしのようなイケてる女とまた会えるって思うだけでドキドキして、自殺したい気持ちなんて消えちゃうんじゃないの? あたしあなたには死んでもらいたくないから……」
「『ありがとう』って言えばいいのかな? でも、自殺志願者のオフ会に一人で行って、女同伴で帰ってくるってのもなあ……」
「そもそもウインドライダーって、本当に自殺しようって思って参加したわけ?それとも、ただの興味本位だったりして」
「あのさー、興味本位だけでああいうとこ行く奴いないと思うけどね。今だから言えるけど、コールドブラッドに車椅子押してもらってる間中、ずっとびびりっぱなしだったんだから……生きて帰れるのか不安でたまんなかったよ」
「ちょっと、本気で死を考えてる人間が何言ってんのよ」
「……本当のこと言うとね。オフ会行って死ぬ決心が付くどころか、人が死んでいくのを目の前で見て、死への恐怖が強まったよ。それよりもさあ、君のような自殺とは縁遠い世界に住んでるようなギャルが、どうしてあんなオフ会に行くわけ? 俺理解に苦しむよ」
「あのね、ウインドライダー、確かにあたしは自殺志願者じゃないけど、人は見かけによらないんだって。あたし幸せそうに見えても、それと同じくらいの不幸を背負ってるのよ。実はお姉ちゃんが自殺しちゃって、もう1周忌法要も終わったっていうのに、悲しみってなかなか癒えないものなのよ。残された家族は人には言えない苦しみを味わって……あたしお姉ちゃんの後を追おうとしたけど、死に切れなかった……」
 一粒の涙がピンクのチークを伝う。
「……だから、あたしは自殺志願者を一人でも思いとどまらせたいの。こんな思いを他の家族にまでさせたくないもの。あたし一人の力なんてたかが知れてるけどね」
「そんなことないって。君のおかげで俺ももう少し生きてみるのもいいかなって思えてきた。とりあえず君の二十歳の誕生日までは生きなきゃな」
 チェリーフラワーに押されて公園を出ていく車椅子の影は、少しずつ闇の中に溶けていった。
< 34 / 68 >

この作品をシェア

pagetop