親指の虜 ―The Thumb Addict―
親指の虜

『ああ、やっぱり素敵』


かかりつけの主治医を見ていていつも思うこと。
正確には、彼のIP関節の曲がり具合とMP関節の
出っぱり具合を目にして感じたことなのだけど。




ストレス社会の現代において、セラピストの需要
はここ最近急激な伸びをみせている。確かにそれ
は有り難いことなのだけれど、お客様の大半が
重度の凝りを抱えているので解すのにも一苦労。

しかしながらこれも仕事のうち、お客様の要望に
応えるべく多い時で一日300分間親指を外や内に
曲げたり、場合によっては全体重を親指だけに
かけて施術したりもする。

このように、癒しを全面に押し出す対外的な
イメージに反して相当労力を伴う故、痛み止めは
なくてはならない存在だ。

その痛み止めを貰うのと、胸に燻る僅かな欲望を
叶えるため、私は今日も今日とて病院へ向かう。

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