こんなかたちではじまる恋
久しぶりのはずの綾野の部屋は、変わらず見慣れた景色だった。



「はい」



綾野はあたたかい紅茶をあたしに差し出す。



「…ありがとう。いただきます」



カップに口をつけると、紅茶の香りとほんのり甘い味にざわざわしていた気持ちが和らいでいった。



綾野はどうしてこんな目に遭ったのか聞こうとはしなかった。
なぜかあたしは綾野の沈黙に耐えられなかった。


少し落ち着いて考えれば、あんな酷いことを言って綾野から逃げてたくせに。



(はじめは綾野のこと都合のいいヤツだって思ってたけど、今は逆だな…)



あたしはキュッとカップを握り締めた。
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