HAPPY CLOVER 1-好きになる理由-
 そして、それからの俺の行動は今考えても凄まじく一直線だったと思う。

 舞の苦手な数学を教えてあげるという計画は俺の思惑通りとんとん拍子に進み、かなり強引だったが土曜日に約束を取り付けた。

 一つ問題があるとすれば、舞がケータイを持っていないので直に連絡を取る方法がないということだが、ケータイを持っていないと恥ずかしそうに言う舞がかわいくて、とりあえずそんなことはどうでもいいと思ってしまった。

 ダテに場数を踏んできたわけじゃないので、俺はそれくらいのことで動じたりはしない。

 良くも悪くも経験は自信になるものだと実感する。あまり自慢できる経験ではないということが少しばかり胸が痛む原因だと思うが、全く経験がないよりはマシだろう。

 ――いや、どうなんだろう……。

 女子の考えることはわからない。

 俺はしゃがんで下駄箱に背中を預け、ぼんやりと考えていた。

 あまり期待しないほうがいいと自分自身を宥めてみるが、既に胸は期待でパンパンに膨らんでいて、その程度ではしぼみそうにない。



 ――だけど、もしふられたら……。



 一応、最悪のことも考えておかなくてはと思うが、思っただけで黙って腰を下ろしていられないほどにズキズキと心臓が痛くなった。

 ――ヤメ、ヤメ。悪いことは考えない。

 それにしても舞はいつまで掃除をやっている気だろうか。遅すぎる。

 そう思っているところにひたひたと静かな足音が聞こえた。

 ――来た、来た。

 顔がニヤけそうになるのを何とかこらえて、俺はしゃがんだままじっとしていた。
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