HAPPY CLOVER 1-好きになる理由-
 上靴を脱いで靴箱にしまう音に続いて外靴を下に置く丁寧な音が聞こえた。

 横目で見ると少し屈んだ舞が靴に足を入れている。

 ギリギリ見えそうで見えない。

 誤解されると困るが、俺は別にスカートの中が見たくてしゃがんでいたわけではなくて、たまたま横目で見たら惜しい角度だったというだけの話だ。

 そんな言い訳がましいことを考えている俺には全く気がつかずに、舞は玄関のドアを開けようとした。

 俺はしゃがんだまま不躾に声を掛けた。

「ねぇ」

「ひぃ!?」

 なるべく気配を消しているつもりだったが、そんなに驚いてもらうとつい嬉しくなる。

「『ひぃ』って何?」

「人がいると思わなかったんで」

 ホントあっさりしてるな、と立ち上がりながら少しガッカリしてしまう。

 約束して、待ち合わせの場所も決めていなかったら、普通、俺を探さないか?

「俺、自転車取ってくるから先歩いてて」

 本当は舞を軽く問い詰めたいところだが、その時間がもったいないので急いで自転車を取りに向かった。

 ――あの言葉と態度は絶対素直じゃないな。

 自転車を走らせながら思う。

 ――……っていうか、舞が見えませんが!

 先に歩いてろ、と言ったのは確かに俺だが、どれだけ先まで歩いているんだ?

 力を込めてペダルを漕いでいると、やっと舞の背中が見えてきた。

 そのむきになって早足で歩く後ろ姿は何だか勇ましく、俺は思わず笑ってしまった。

 しばらくすると信号で立ち止まる。ようやくホッと肩の力を抜いたように見えた。

 ――ああ……。

 ふと舞の気持ちが垣間見えた気がして、胸の奥がぎゅっと鷲掴みされたような感覚に襲われた。
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