HAPPY CLOVER 1-好きになる理由-
 隣の席のソイツはあの悪魔の微笑をたたえていた。こ、怖い! しかも私、肯定しちゃってるし。

「じゃあケータイ教えてよ」

 そう言ってズボンのポケットに手を突っ込んだ。……待て待てマテ!!

「私、持ってないから」

 語尾がだんだん小さくなった。言いながら自分でも恥ずかしくなって背を丸めて小さくなろうとする。

「え?」

 清水くんは驚いたようだった。私はまた彼の顔を見ることが出来なくなってしまった。

「だからケータイ、持ってない……」

 もうほとんど消え入りそうな声で私はやっとそう言った。

「あ、そう……なんだ」

 そんな申し訳なさそうな声出さないでよ! だってケータイなんか私には必要ないんだもの。

「それじゃあ、どうしようか? ちょっと考えとくね」

「……はぁ」

 不思議と私は素直に返事をしてしまっていた。よくわからないが、いつの間にか清水くんに数学を教えてもらうことになったらしい。それは確かにありがたい。このままだと赤点になりそうだ。

 でも問題は教えてくれる人が隣の席のソイツだということだ。

 私は改めて横目で隣の席を見た。途端に心臓が過剰反応する。これって条件反射なんだろうか? 隣の席になる前にも清水くんを見たことはあるが(そりゃ同じクラスだから当然だけど)、こんなに心臓がドキドキして苦しくなることはなかったはずだ。ということは、過去のある時点から私はパブロフの犬になってしまったというわけだ。

 ……いつから、す、す、好きになっちゃったんだろう。

 その日の授業は私にとってほとんどBGM状態だった。一応ノートは清水くんが読んでくれるから頑張って取っていたけれど、内容は書きながらどんどん忘れていった。
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