鈴姫
何気なく窓の外へ目をやると、とっくに陽は沈んでいて、あたりは暗い夜の帳に覆われている。
「ところでこ……、じゃない、笙鈴は狙われてるんだったよな」
憂焔が部屋のすみにあった丸椅子の上に腰を下ろしながら尋ねてきて、香蘭は頷いた。
「ええ。もしかしたら、お兄様に……知られてしまったかもしれないの」
「なんで?どうしてわかるんだ?」
そのあたりは香蘭もよく理解していないので目で助けを求めると、秋蛍はかわりに説明してくれた。
「術者が意識的に流れをつくった鈴を部屋に放ったんだ。その鈴が巫女に反応すると流れが引き寄せられる。おまけに気配も読み取られるから」
「そんなの、いくら名前を隠して歩いたって一緒じゃないか。その鈴を持ち歩かれたら、すれちがっただけで香蘭だってわかってしまう」
憂焔が秋蛍の話を最後まで聞かずに表情を険しくして詰め寄ったが、秋蛍は動じない。
「何のために俺がいると思っている?香蘭には鏡を持たせてある。あれに常に結界を張るよう
に命じてあるからそう簡単にはばれない」
秋蛍が淡々と言ったのを、憂焔はおもしろくなさそうにしながら頷いた。
「ふうん。さすがは秋蛍様?」
「ゆうえん」
また喧嘩を売ろうとする憂焔を窘めると、彼はふてくされながらも大人しくなった。
さすがに少しかわいそうになって、香蘭は憂焔に近づいた。
彼は香蘭のためにここへ来てくれたのに。
「憂焔、あなたがいれば心強いわ」
憂焔はふん、と顔を背けたが、照れているのが丸わかりだった。
「明日からリンの修行を始める。頼むから邪魔はするなよ」
「笙鈴の邪魔なんかしないから安心してくれ」
憂焔は壁に背を預けて目を閉じてしまった。香蘭はため息をつく。