鈴姫


この二人がうまくやってくれることを願うしかない。


いつの間にかハルが鏡の姿に戻っていてびくりとしながら、香蘭も横になろうと髪につけている鈴を外していると、秋蛍が外へ出て行くのに気付いた。


「秋蛍様?」


「ちょっと風に当たってくる。お前は寝ていろ」


そう言って戸を閉じてしまった。


秋蛍の足音が遠ざかり、部屋の中には憂焔の寝息が静かに響きはじめた。


秋蛍のことだから何も心配はいらないが、香蘭はしばらく閉じられた戸を見つめてから、灯りを消した。


「ん…」


壁に寄りかかって寝ている憂焔が身じろぎした。


香蘭は微笑み、前に着ていた着物を手に取ると、起こさないようにゆっくりと彼に近づいた。


寝息をたてる彼に、そっと着物をかけてやった。


窓から差し込む月明かりに浮かぶ憂焔の寝顔を見つめながら、香蘭はずっと昔のことのように、憂焔と出会った日からのことを思い返した。



お茶目な冗談、全然甘くない赤い木の実。



そういえば、なかなか鈴を受け取ってくれなかったことを思い出し、くすりと笑った。

あの時は少し傷ついた。


それから馬に乗って、丘へ連れて行ってくれて。


世界は広いということを憂焔が教えてくれた。



彼のところへ嫁ごうと決意したのもその時。



そして鈴国を共に発ったあの日。


香蘭を狙ってきた刃から憂焔は身を挺して守ってくれた。


今、香蘭がこうして生きているのも、彼のおかげだといえる。


それなのに、また彼はこんなところまで来てくれた。



また香蘭を守るのだと言ってくれた。



「ありがとう、憂焔」



感謝の言葉は寝ている憂焔には届かず薄闇の中に消え、そっと彼の額に唇を落とした。





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