意地悪LOVER
「ふう…」
嫌だけど。嫌だけど。
行くしかないんだよ。
どうせ、逃げたって意味がないのならあたしに逃げる理由は見つからない。
それなら、強く胸張って笑っていなきゃ。
大地に心配かけないように、笑っていなきゃだめなんだよ。
あたしは、制服を着終えるとゆっくり階段を降りていく。
「ひかり、起きたのか」
リビングでは、新聞を開いて朝食を食べながらあたしを見るお兄ちゃん、相沢 夏喜がいた。
あたしがいる時間にいることは滅多にないからすっごく驚いた。
「お兄ちゃんこそ」
「俺は今日は午後から大学行く」
「そっか」
いつ振りだろ?
お兄ちゃんと会話交わすの。
今までまったく会話がなかったわけじゃないけど、こんな会話らしい会話をしたのは本当に久しぶりかもしれない。
「早く行けよ、遅刻すんぞ」
「…はーい」
気持ちが重いままあたしは鞄を持って玄関から外へと歩みだす。
外はあたしの気持ちとは裏腹に明るくて、逆にそれが更にあたしの気持ちを重くした。
「おっす!ひかり!出てくんのおせーっ」
後ろから急に何かで頭をぶつけられた。
慌てて後ろを振り返ってみると、鞄を振りかざした大地の姿が。
あたしに当たったのは鞄だということが分かった。
「び、びっくりした…!!」
「へへっ!学校一緒に行こうぜ?」
「え…あ、うん」
もしかして、大地は待っててくれたのかな。
さっきだって、"出てくるの遅い"って言ってたわけだし…。
ドキン。胸が高鳴るのと同時に、淡い期待があたしの中に溢れだす。
やだよ、優しくしたら…。
あたし、大地のこともっと好きになっちゃうじゃんか。
「…でも、急にどうして?」
「なんとなくだよ!」
そう言って今度はあたしの背中に鞄をぶつける大地。
でも、大地の表情は優しく明るい。
あの大好きな笑顔が今はあたしだけに向けられてるんだと思うと更に胸が高鳴る。
あたし、幸せだー…って思える。
「…ありがとね」
「ん!」
あたしと大地はお互いに微笑みあって、学校までの道のりをゆっくりと歩きだした。