パラサイト ラブ
「あの子、婚約者に幸せになって欲しいから一緒に住んでる家を出たって言ってた。
自分が側に居たら幸せになれないって」
俺は手の中のマグカップを握りしめた。
未だに朝乃の気持ちは変わっていないんだと思うとやりきれなかった。
……そこまで朝乃に決意させてしまったのは、俺のせいだから。
「でも、それは違うみたいだね。あんたにはあの子が必要、そうだろ?」
そっと、老婦人が俺の手に触れた。皺だらけの手は、優しくてあたたかい。
「――――あの子を連れてったのは、探偵だ」
急に語気を強めて、老婦人が俺に言った。
「遠山先生に頼まれてあなたを探していた、探偵はそう言ってたよ。
その名前を聞いてあの子はずっと首を横に振ってたんだけど、なにか嗅がせて気を失わせたんだ。
そうしてあっという間に車で連れてってしまった。誰にも言うなと私にこれを握らせて」
老婦人はポケットをごそごそあさり、何枚かの一万円札を出して俺に見せてきた。