しあわせおばけ

妻の温かい左頬に触れるはずだった俺の右手は…―

その感触を手に伝えないまま、すり抜けた。



「……」

なんだ。

触れないのか。

せっかく再会できたのに。

せっかくこんなに近くにいるのに。

せっかくふたりきりなのに。



「そんなにがっかりした顔しないで」

妻が微笑む。

「…そりゃあ、がっかりもするよ。触れないなら、キスもできないし」

俺は立ち上がって、リビングへと引き返した。




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