しあわせおばけ

やがて家の中をカレーのいい匂いが漂い始めた。

ケーキを食い損ねた俺は腹がペコペコで、相沢が野菜サラダ作りに気をとられている隙にちょっとカレーを食べちゃおうかなと炊飯器を開けたけど、すぐに閉めた。

『こらっ!』

という妻の声が聞こえた気がして。



近頃の俺ときたら、百か日を過ぎたら泣かないと決めたのに涙は出るし、とうとう幻聴まで聞こえるようになってしまったのか。

一周忌を目前に、俄然、妻が恋しい。



「…くに…おい、三国!」

「…えっ、あ、ごめん、何?」

相沢に呼ばれてハッと我に返った。

「おまえ顔真っ青だぞ。あとの準備は俺やれるから、ちょっと休んでろよ」

「真っ青…?べつに大丈夫だよ」

いいから休め、と相沢に背中を押されて、俺はキッチンと繋がるリビングのソファに腰を下ろした。



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