しあわせおばけ
これまで、普段は仕事ばかりでも、休日にはちゃんとパパをしていたつもりの俺は、明日香とは良好な関係が築けていると思っていた。
でも思い返してみれば、明日香とふたりきりになった記憶は、あまりない。
「俺と明日香の間には、いつも必ず紗希がいたんだよなぁ」
妻がいたから成り立っていた親子。
認めるのは悔しいけど、冷静に考えてみればそういうことだ。
四十九日の法要が済んで、義母たちもあまり訪ねてこなくなり、ふたりだけの生活になり始めた頃の違和感。
そして今の、何もかもがうまくいかない状況のすべてが、それを如実に物語っていた。
「やっぱ紗希は偉大だったなー。俺なんて、真似しようにも何にもわかんねーや」
玉ねぎを切りながら呟く俺の言葉を、相沢は黙って聞いていた。
目の前がぼやけて見えるのは、悲しいからじゃない。
玉ねぎのせいなんだ。