しあわせおばけ

これまで、普段は仕事ばかりでも、休日にはちゃんとパパをしていたつもりの俺は、明日香とは良好な関係が築けていると思っていた。

でも思い返してみれば、明日香とふたりきりになった記憶は、あまりない。

「俺と明日香の間には、いつも必ず紗希がいたんだよなぁ」



妻がいたから成り立っていた親子。



認めるのは悔しいけど、冷静に考えてみればそういうことだ。

四十九日の法要が済んで、義母たちもあまり訪ねてこなくなり、ふたりだけの生活になり始めた頃の違和感。

そして今の、何もかもがうまくいかない状況のすべてが、それを如実に物語っていた。

「やっぱ紗希は偉大だったなー。俺なんて、真似しようにも何にもわかんねーや」

玉ねぎを切りながら呟く俺の言葉を、相沢は黙って聞いていた。



目の前がぼやけて見えるのは、悲しいからじゃない。

玉ねぎのせいなんだ。



< 30 / 221 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop